5月22日、消毒用アルコールの不正転売を罰則付きで禁止する政令が閣議決定され、公布された。26日に施行される。遅きに失した感はあるが、一歩前進であることは確かだ。具体的な規制の内容は――。
規制の対象は?
今回の措置は、国民生活安定緊急措置法に基づく。政令の改正によって、転売規制の対象である「生活関連物資等」の中に、従来の衛生用マスクに加え、新たに「消毒等用アルコール」を付け加えたというものだ。
メーカーも大幅に増産しているが、医療機関や介護施設などに優先的に供給されており、市中では品薄状態が続いている。
そこで、消毒や殺菌のみならず、これに類する行為に使用されることが目的となっている製品の不正転売を広く規制しようというわけだ。液体だけでなく、これを染み込ませた脱脂綿や紙、不織布なども含まれる。
「医薬品」や「医薬部外品」として販売されているものであれば、エタノール濃度を問わない。当然ながら、まったく含有されていない製品は対象外だ。
また、医薬品や医薬部外品でない場合は、エタノール濃度が60vol%以上のものに限られる。
あくまでこれらの要件が前提となるが、具体的には次のような製品が規制の対象となる。
(医薬品・医薬部外品)
消毒用エタノール、手指消毒液、消毒用タオル、エタノール含浸綿、殺菌消毒薬、ハンドソープなど
(医薬品・医薬部外品でないもの)
エタノール製剤などの食品添加物、除菌ジェル、除菌シート、除菌タオルなどの除菌製品、スピリッツなどの酒類、アルコール消毒液の代替品として不可飲処置を施した酒類など
あくまで一例であり、これ以外の製品で先ほどの要件に当てはまれば規制の対象だ。逆に、次のような製品は規制の対象外となる。
(医薬品・医薬部外品)
口中清涼剤、体臭防止剤、育毛剤、薬用シェーブローションなど、エタノールが含有されていないもの
(医薬品・医薬部外品でないもの)
・エタノール濃度が60vol%未満の製品:空間用消臭剤、掃除用シートなど
・除菌等以外の用途の製品:古酒、香水、工業用洗浄剤など
規制の対象にあたる製品か否かは、客観的な濃度のほか、その製品の表示内容、製造業者や小売業者、転売者による宣伝や広告の内容などにより、社会通念に従って判断される。
どのように販売したらアウト?
違反者に対する刑罰は、1年以下の懲役か100万円以下の罰金であり、両者を併せて科すこともできる。法人の代表者や従業員らが業務に関して違反に及べば、行為者とともに法人にも罰金刑が科される。
ただし、後にできた法規制によって過去の行為は処罰できない決まりだから、施行日である5月26日の転売から規制されることとなる。もちろん、それよりも前に生産、流通している製品であっても、施行後に不正転売に及びさえすれば、処罰される。
規制される不正転売の内容は、マスクの場合と全く同じだ。改めて整理すると、次のようになる。
(1) 一般消費者がアクセス可能な店舗やインターネットサイトなどを通じ、広く対象製品を販売している小売業者などからその製品を購入した者が、不正転売に及ぶこと
(2) 不正転売とは、実店舗やフリーマーケット、露店、ネット上の転売サイト、通販サイト、SNSなどを通じ、不特定または多数の者に対し、対象製品の売買契約締結を申し込み、あるいは誘引したうえで、「購入価格」を超える価格で譲渡すること
(3) 暴利を得たか否かを問わないから、購入価格を1円でも超える金額で転売したらアウト
(4) 転売行為を反復継続する意思は不要であり、入手・転売した数量、転売の回数や頻度などを問わず、たった1回の転売でもアウト
(5) 製造・輸入業者が卸売業者に販売するとか、卸売業者が小売業者に販売するといった、通常の商取引は規制の対象外
「穴」が埋められぬまま…
ただし、今回の政令改正でも、マスクに対する規制の際に問題となった「穴」が埋められぬままだ。
例えば、薬店などでの購入価格やその後の転売価格に送料などの実費を含むのか、という問題だ。
チケットの転売規制を参考にした措置だから、ここでの解釈が参照され、実費は含まれないという方向になると思われるが、グレーゾーンでもある。
少なくとも、プラスする部分は通常の送料などの金額を超えてはならないし、実費の具体的な内訳を明示していなければならない。
例えば、実際の送料が1千円、製品の購入代金が1千円のときに、送料9千円、販売代金1千円の合計1万円で販売するとか、送料込みで1万円で販売するとか、ほかの安価な商品と抱き合わせで1万円で販売するといったやり方だと、1千円のものをそれ以上の金額で販売したと評価されるから、処罰の対象になる。
先ほど挙げた(5)の点も、抜け道に使われる穴の一つだ。
マスクについても、正規の仕入・販売ルートを経たうえでの小売業者による便乗値上げが目立った。
また、中国の卸売業者から直接仕入れたなどとうたい、ネット上の通販サイトなどで高額で販売する業者が相次いだ。
特定商取引法に基づいて表示が義務付けられている住所を調べてみると、レンタルオフィスであり、会社としての実態がなかったり、個人宅だったりする場合もあった。
街なかでも、普段はマスクなど取り扱っていない衣料品店や飲食店などが店先のワゴンに箱入りのマスクを山積みし、販売する光景が見られた。
アルコール消毒液を保管するスプレー容器や、食品衛生法に適合したポリエチレン製の使い捨て手袋、体温計など、コロナショックで需給バランスが崩れ、ネット上で高額で転売されている製品もまだある。
国民の生命や健康に直結するものであり、政府にはこれらの穴を埋めるために、先手先手のスピーディーな措置が求められる。
「転売屋」から買わないこと
今回の規制開始により、これから「駆け込み転売」が予想される。すでに一定の自主規制を行っている転売サイトや通販サイト、個人間売買仲介サイトなどもあるが、今後、それが一気に加速し、徹底されることで、値崩れの様相を呈することだろう。
在庫を抱えて泣きを見る転売屋も出てくるはずだ。
マスクで明らかになったとおり、供給が安定して需給バランスが整ってくれば、自然と価格も落ち着き、手に入りやすくなる。
こうした転売規制を実りあるものとするためには警察の「やる気」も重要となるが、5月22日にはインターネットで仕入れたマスクを高額で不正転売し、利益を上げていた衣料品店の経営者らが三重県警に書類送検されている。
全国初の検挙だが、こうした結果を積み重ねることも重要だ。
転売屋から買うのはやめ、マスクのように供給が安定してくるまで少し待とう。(了)
(参考)
拙稿「店で買ったマスクを家族や友人に売ったら処罰される? 転売に関するQ&A」
岩手「南部美人」蔵元・久慈浩介「高濃度アルコール製品開発への想い」
"販売" - Google ニュース
May 23, 2020 at 07:10AM
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