2020年のニューカーで最も話題になっているといえば、新型トヨタハリアーだろう。デビューから1カ月で約4万5000台を受注した。これは月販目標の14.5倍となる驚異的な初期受注だ。
しかしこの初期受注の多さは、新型ハリアーだけでなく、最近デビューしたクルマほぼすべてと言っていいほどなのだ。
初期受注の多さは景気のいい話で否定したくはないが、新車の発表(公開)と発売の次期のズレによって初期受注が増えているというという事実は見逃せない。
なぜ新車の発表と発売がズレるようになったのか? 実車を見ずにクルマを購入するユーザーの心理などについて渡辺陽一郎氏が考察する。
文:渡辺陽一郎/写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA、MAZDA、SUBARU、DAIHATSU、平野学、池之平昌信、ベストカー編集部
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売るサイドもクルマについて知らない異常事態
最近のクルマの発売方法には、従来とは違う特徴がある。納車を伴う発売の数カ月前から、予約受注などと称して、顧客の注文を受け始めることだ。
この傾向が顕著だったのは、現行レヴォーグだ。価格などを公表する正式発表は2014年4月15日、発売は6月20日だったが、予約受注は年明けの1月4日に開始した。
1月の時点では、販売店に試乗車や展示車はない。セールスマンもプロトタイプにすら試乗していない。各種のデータや特徴を掲載した資料と写真があるだけで、運転感覚や車内の広さは分からない状態で商談を始めた。
この状況をスバルのセールスマンは以下のように振り返る。
「クルマを見ない状態で、資料だけで商談するのは初めてだったから戸惑った。お客様から、車内はレガシィツーリングワゴンよりも広くなるのか、同じなのかと尋ねられても返答できない。受注を頂いても、納車は約半年後だ。時々連絡を入れて、もう少しお待ち下さい、などとケアをする必要も生じた」。
この発売方法はユーザーと販売店に評判が悪く、その後は多少見直されたが、予約受注から発売までの時間差は相変わらず残る。
事前予約の前倒しは当たり前になっている
ほかのメーカーも同じように予約受注の前倒しを行う。マツダも現行CX-5の予約受注を開始した時、大半のセールスマンは試乗していなかった。
セールスマンは、「先代CX-5のお客様から、新型の走りや乗り心地がどのように変わったかを尋ねられても返答できない。申し訳なかった」と言う。
マツダ3では、1.5Lガソリンエンジンとクリーンディーゼルターボは2019年5月に発売したが、2Lガソリンは7月で、スカイアクティブXの各種データはこの時点では未定だった。
その後に設計を変更したこともあり、スカイアクティブXのデータがわかったのは2020年1月以降だ。それでも受注は燃費数値などがわからない状態で2019年から行っていた。
事前予約はメーカーの事情
なぜ実車も見られない発売の数カ月前から予約受注を開始するのか。メーカーの商品企画担当者に尋ねると、以下のような返答だった。
「予約受注を行うと、生産を開始する前に、需要を予測できる。売れ筋のパワートレーン、グレード、オプションなども予めわかるから、生産計画を立てやすい」
納得できる説明だが、以前は予約受注など行っていなかった。
発表前に東京モーターショーなどで披露された場合を除くと、発売まで秘密を守り、新型車の情報は露出させなかった。
その代わり発売と同時にCMを放送して、週末に販売店へ出かけると、展示車も用意されている。世の中がすべて新型車に染まった。
三菱のOBは、「1976年に初代ギャランΣ(シグマ)を発売した時は、販売店の入口から歩道に長い行列ができた。警察から注意を受けたほどだ」と振り返る。
新型車が登場すると、どこの販売店も盛況で、売れ行きも一気に伸びた。そして従来型は、新型車の発売まで、しっかりと売り切った。
だからこそ、従来型の買い控えを抑えるために、新型車は秘密を守る必要があった。
カタログの色校正紙が漏洩して自動車雑誌にわたり、スクープ記事に発展した時は、メーカーが印刷会社を訴えて窃盗事件に発展した。編集者が警察から事情聴取を受けたりした。
納期が長引くことのデメリットは多岐にわたる
それが今では数か月前に外観を披露して、次は販売店に行けば価格などがわかる予約受注を行い、価格や各種データを公表する発表を経て、納車も行われる発売に至る。
ユーザーから見れば、従来型の販売がいつ終わり、新型車がいつ登場したのかわからない。これでは新車市場も盛り上がらない。
そして「予約受注を行えば、売れ筋のパワートレーン、グレード、オプションなどが予めわかる」のは、メーカーの需要予測能力が衰えたことを示す。
予約受注によってメーカーが簡単に生産計画を立てやすくなる代わりに、ユーザーは注文から納車まで長い期間待たされる。販売店も顧客のケアに追われるのだ。
今は新車需要の80~90%が乗り替えに基づき、ユーザーは車検期間の満了に合わせて納車を希望する。
そうなると納期が長ければ、新車の納車前に、下取りに出す愛車が車検を迎えてしまう。車検を取り直したり、クルマを持たない期間を過ごさねばならない。
納期が長引くと、下取り車の価値も下がる。予約受注の時に査定を受けても、納車時に改めて価値を判断する必要が生じる。数々の面倒が発生するのだ。
実車を見ずに新車を買うケースが増えている
ユーザーは実車を見ないで予約したり、長く待たされることをどのように考えているのか。この点もセールスマンに尋ねた。ユーザーは大きく2タイプに分類できるという。
「慎重に選ぶお客様は、たとえ納期が長引いても、発売後に試乗してから購入の判断を行う。値引きなども含めて、ライバル車との比較も行うから、必ずしも買っていただけるとは限らない」
そしてもう1タイプが実車を見ずに新車購入するユーザーで、最近ではこちらが大勢を占めているという。
「即座に予約して、なるべく早い納車を望むお客様の大半は、以前から付き合いがあり、フルモデルチェンジを受けた同じ車種の新型に乗り替えるパターンだ。従来型を使っているから、新型も想像できる。つまり新型を信頼して予約する。従って商品力が下がると、信頼を裏切ってしまう。今のコンパクトカーなどは、コストの低減や燃費の向上を目的に、新型の乗り心地が従来型より硬くなったりメッキパーツを省くことがある。これは困る」。
極端な予約受注の前倒しはユーザーも販売現場も混乱
最近はクルマの売れ行きが伸び悩み、2019年の国内販売は520万台だった。1990年の778万台に比べると、約30年間で30%以上減った。その理由はさまざまだが、新車を発売する時の勢いが薄れたこともあるだろう。
メーカーの商品企画担当者は、「最近はインターネットに発売前の新車情報が飛び交い、憶測による情報が事実のように扱われることも増えた。そこで早々に情報を公開して、予約受注を始める事情もある」と言う。
確かに今はSNSなども含めて、情報を伝える媒体の種類が圧倒的に多い。新車の発売方法も変化を迫られるが、極端な予約受注の前倒しは、ユーザーと販売現場を混乱させる。
3代目プリウスの前倒し成功で他メーカーも追従
ちなみに予約受注の前倒しで最初に話題を呼んだのは、3代目(先代)プリウスだった。発売は2009年5月18日だが、予約受注は4月1日に開始した。
しかも3代目プリウスは、ハイブリッドシステムを進化させながら、先代インサイトに対抗して価格を割安に抑え、販売店はトヨタカローラ店とネッツトヨタ店を加えて全店扱いに移行した。
これらの相乗効果で3代目プリウスは受注を伸ばし、トヨタは「発売から1か月後の受注台数が約18万台/月販目標は1万台」と大々的に宣伝した。その結果、プリウスは最長で10か月の納車待ちに陥っている。
納車を伴う「登録台数が約18万台」なら立派だが、ユーザーを1年近くも待たせたのだから、受注台数だけが増えても褒められない。
それなのに他メーカーの反応は、「人気の高さを誇れるからウチもやろう」というもので、今の状況に発展した。
トヨタは自動車産業のリーダー的な存在だから、いいことも、悪いことも、真似されてしまう。
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August 16, 2020 at 05:00AM
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