コロナ禍に見舞われた2020年度の第1四半期。キャリア4社の中でいち早く決算を発表したKDDIだが、通信事業はむしろ需要が増していることもあり、業績自体は堅調だった。一方で、大打撃を受けた分野もある。それが、端末販売だ。特に第1四半期は5Gの立ち上げ直後で、インフラの移行計画にも影響を与えかねない。端末販売の立て直しは急務といえそうだ。その詳細を見ていきたい。
コロナ禍の影響は軽微だった第1四半期決算、電気やテレワーク需要は伸びる
生活に欠かせないインフラということもあって、通信事業はコロナ禍の影響を受けづらい。毎月の料金をユーザーから受け取れる上に、外出自粛の状態でも一定のニーズがあるからだ。むしろ、リモートワークやオンライン授業などで、通信そのものに対するニーズは増えたといえるかもしれない。KDDIの第1四半期決算も、それを証明する。
売上高は1兆2427億円で、前年度の1兆2461億円からはわずかに落ちて減収になっているものの、営業利益は2558億円から2907億円へと増加。第1四半期は、前年同期比で減収増益になった。業績予想については据え置かれている。同じインフラでも鉄道・航空など、他分野で会社とは1000億円を超える大幅な赤字を出している会社も多いが、そうした会社と比べ、通信はコロナ禍に強いといえそうだ。
コロナ禍の影響で、むしろ伸びている分野もある。コンシューマー分野では、外出自粛の結果、電気の使用量が大きく増えた結果、「auでんき」のARPA(1アカウントあたりの平均売り上げ)が640円に伸長。19年度の350円、20年度の490円を上回る伸びを記録し、営業利益の増加にも貢献した。
法人事業では、テレワーク需要が伸び、クラウドアプリ、リモートアクセス、ビデオ会議の申し込み数が、それぞれ5倍、4倍、8倍に増加したという。KDDIまとめてオフィスの新規契約数も、スマートフォンが1.6倍、タブレットが1.8倍、モバイルルーターが1.9倍と、テレワーク需要を取り込むことができた。上記のauでんきをはじめとしたライフデザイン分野と法人分野の伸びは、営業利益増の要因のうち、206億円に上るという。
端末販売台数45万台減少の衝撃、電気通信事業法改正も打撃に
足元の業績は堅調だったKDDIだが、不安要素もある。コロナ禍で、5Gへの移行に遅れが出ているからだ。深刻なのが、端末販売台数。2019年度の第1四半期が195万台だったのに対し、今期は150万台と45万台もの減少に見舞われた。KDDIの高橋誠社長もこの状況に危機感をあらわにしながら、次のように語った。
「販売コストの減少で241億円の増益になったが、端末販売台数は前値同期比で45万台減少している。5Gへの移行を進めていかなければならない中、これが予定通りに進んでいない。少々焦りを感じている」
端末販売台数が大幅に減少した結果、販売手数料も減ったため、増益要因になった一方で、5Gの立ち上がりがつまずいてしまったというわけだ。高橋氏は、「3月からかなり力を入れてやっていこうと思っていたが、その出ばなをくじかれてしまった」と語る。新型コロナウイルス感染症への警戒が広がる中、3月、4月に予定されていたイベントは全て中止になり、auショップも業務を大幅に縮小。ユーザーが端末を購入する機会が奪われてしまった格好だ。オンラインでの販売も、ショップでの落ち込みをカバーできなかった。
5G開始当初の端末はハイエンドが多かったことも、要因の1つといえる。2019年10月に電気通信事業法が改正され、ハイエンド端末の売れ行きにブレーキがかかってしまったからだ。高橋氏によると、販売台数減の影響は「コロナの拡大が一番大きかったが、事業法改正の影響がなかったかというとウソになる」といい、複合的な要因であることがうかがえる。
実際、販売した端末の単価も低下しているようだ。代表取締役執行役員副社長の村本伸一氏によると、「第1四半期はiPhone SEがシェアを占めていたが、低単価のため、前年同期比で端末の単価は下がっている」という。ご存じの通り、iPhone SEは4G端末。KDDIは、5Gの契約者数や5G端末の比率を明かしていないが、ユーザーが低価格な4G端末に流れている様子もうかがえる。
コンシューマーが増えなければ、インフラに対する投資が無駄になってしまいかねない。5Gの上で展開しようとしていた各種サービスも広がりを欠いてしまうと、悪循環に陥る恐れもある。「諸外国と比べ、展開スピードが後手に回っている。よく頑張らないといといけない」と危機感をのぞかせるのは、そのためだ。
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徐々に戻る販売状況、低価格モデルとiPhoneで秋から再始動
一方で、緊急事態宣言が終わり、auショップの活動も再開している。第2四半期の7月以降は、「だいぶ販売状況が戻ってきた」(同)という。8月5日には、約6万円と価格の安いZTEの「ZTE a1」が発売を控えており、Xiaomiの「Mi 10 Lite 5G」も夏に販売を開始する予定だ。価格を抑えたミドルレンジモデルが、販売にはプラスになる可能性もある。
高橋氏は、「最初の5G端末は高いので、もう少し単価の安い端末をラインアップにしっかり入れていくことをやらなければいけない」と語り、価格を抑えた端末を強化していくことを示唆する。
コロナ禍の影響を受け、出足が鈍かったKDDIの5Gだが、エリアについては、順調に広がっているようだ。高橋氏は「端末販売についてはコロナの影響もあって厳しいが、基地局の建設工事は順調に進んでいる」と自信をのぞかせた。年度末の2021年3月末には約1万局に基地局を拡大。2022年3月末には、5万局と一気に数を5倍に増やす計画だ。
KDDIは5Gを開始した3月時点で、2021年3月末に1万局、2022年3月末に2万局超の基地局開設計画を発表していたが、大きく上方修正した格好だ。基地局数を大幅に増やせるのは、地方でのインフラシェアリングや既存周波数帯の転用を活用するため。KDDIはソフトバンクと共同で、5G JAPANを設立しており、地方での基地局設備を相互利用する計画。「ソフトバンクとの5G JAPANもすこぶる順調で、地方を中心に対象局も見えてきたので、これから工事を進めていく」(同)という。これに、既存周波数帯の転用を加えて加速していく」(同)というのがKDDIの方針だ。
こうした状況を踏まえ、「再出発を秋からできるよう、着々と準備を進めている」(同)。秋以降には、5G対応のiPhoneも発売するとウワサされており、端末ラインアップはさらに厚くなる。高橋氏は「iPhoneが対応するかどうかは臆測の域を出ていないが、そうなった場合、かなり力を入れていかなければならない」と決意を語った。
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