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なぜ今も繰り返される? 販売店での「オプションのベタ付け」問題 - ITmedia

 高齢の母親が携帯電話の買い替えに行ったところ、高額な大容量SDメモリーカードとも分割払いで買わされていた。そして店頭スタッフにオプションサービスを「ベタ付け」しろとメモで指示がなされていた――あるドコモショップで発生した「事件」がここ数日、SNSやマスコミなどで話題になっています。

 ユーザーにとって不要な物品のバンドル販売や、不要なオプションサービスの契約強要といった問題は決して新しいものではなく、携帯電話業界の全体に蔓延(まんえん)する大きな課題です。それを是正するため、総務省は販売代理店やそれを統括する立場である大手通信事業者(キャリア)に命令や指導を行ってきましたし、国民生活センターも消費者(ユーザー)に向けて注意喚起を行っています(参考リンク:PDF形式)。

 それにも関わらず、なぜこのようなトラブルが今も繰り返されるのでしょうか……?

ショップのイメージ キャリアショップを含む販売代理店の現状は……?(写真はイメージです)

法改正後も変わらない、「ノルマ」ベースの厳しい運営

 携帯電話の販売代理店の収益源の1つが、キャリアから得られる「手数料」です。主立ったものでは、「販売した携帯電話の台数」や「オプションサービスの獲得(契約)件数」に応じて手数料が入ってきます。目標の台数や件数を達成すると、キャリアや販売代理店の運営会社からボーナスとして追加で「販売奨励金(インセンティブ)」をもらえる仕組みもあります。

 簡単にいえば、売れば売るだけ、契約を獲得すれば獲得するだけ儲かる仕組みとなっているため、店舗を維持するには“売って売って売りまくる”ことが必要不可欠です。

 しかし、昨今の携帯電話市場の様子を見ると、そのビジネスモデルの維持が困難になるような環境変化も見受けられます。端的にいうと端末(スマホやケータイ)を買い換える動機が薄れるような変化です。

 ちょっと具体的にいえば、こんなことが起こっています。

  • ハイエンド端末の本体価格が上昇した(10万円超も珍しくない)
  • OSバージョンアップが盛んになった(端末を買い換えなくても新機能が追加される)
  • 端末に依存するサービスが少なくなった(「キャリアフリー」化の一因でもある)

 買い換える動機が薄れる変化に追い打ちを掛けているのが、2019年10月に施行された改正電気通信事業法と、それに関連する総務省令とガイドライン類(以下まとめて「改正法令」)です。

 改正法令では、通信規格の世代変更(「3G→LTE」など)に伴う契約変更など、ごく一部の例外を除いて端末代金の割り引きが「最大2万円」に制限されました。

 ユーザー視点でいえば、おトクに携帯電話を買い換える手段がない以上、「壊れた」「なくした」といった消極的な理由が生じない限り、積極的にスマートフォンやケータイを買い換えようとは考えなくなるはずです。

 結果的に、販売代理店は「売れない」「取れない」状況に陥ってしまっています。

制約 2019年10月(一部は2020年1月)から施行された、端末販売に関する制限。店舗によっては販売面で大きな影響を受けているようだ

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 端末が売れず、サービスの契約も獲得できないのであれば、以前の連載で取りあげた通り、端末販売時に「頭金」と呼ばれる独自の手数料を上乗せすれば、一応の売り上げは立ちます。

 とはいえ、実際の店舗販売では端末の販売台数やサービスの契約件数といった旧来の「ノルマ」も依然として課されています

 このことについて、キャリアショップや量販店に勤務する人に話を聞いてみた所、このような反応がありました。

 弊社のノルマは、「昨年対比」で設定されています。要するに、2019年10月以降のノルマは、法改正前の実績をもとに設定されたものを追うことになっています……。

 法改正による影響を無視したノルマ設定は、例えるなら「難しいゲームの難易度をさらに高めて、余計にクリア率を下げる」みたいなものです。それって、どうなんでしょうね……?

 私たちの店舗では、法改正によって端末販売が振るわなくなることを予想して、売り上げの減少分をアクセサリ販売やオプション契約の獲得(によって得られる手数料)でカバーしようということになりました。

 なので、法改正前よりもこれらのノルマが上乗せされています。正直、つらいです……。

 ノルマが未達となった場合、店舗を運営する原資として大きな比率を占める「支援金」が減額されます。その名の通り、支援金は販売代理店の運営企業が店舗に運営資金として付与するもの。これが減額された場合、店舗の従業員数を減らすなど運営体制の再構築(いわゆる「リストラ」)をせざるを得ません

 従業員を減らした場合でも、その分だけノルマが軽減されるとは限りません。人は減ってノルマが減らないとなれば、店員1人当たりのノルマはむしろ増えてしまいます。

 継続してノルマ未達となった場合、店舗は「閉鎖」または「他の販売代理店への移管」という話になりかねません。店員が強引な勧誘を行ってしまうということは、視点を変えると店舗(あるいは店員個人)がノルマ面で切羽詰まった状況に陥っているともいえます。

ショップのイメージ 携帯電話市場の変化に伴い、端末販売台数やオプションサービスの契約件数を追い求めることは難しくなっている(写真はイメージです)

強引な販売や契約をなくすのに必要なこと

 国内携帯電話市場における「競争の健全化」と「消費者(ユーザー)の保護」は長年の課題で、少しずつ改善を重ねています。去年(2019年)の改正法令までに、主に以下のような取り組みが行われました。

  • 契約内容を全て記載した書面の交付を必須化(参考記事
  • 最低8日以内の「キャンセル(クーリングオフ)期間」の設定
  • 2年(定期)契約の解除料の上限を1000円に

 すでに1人1台以上の台数が普及している、国内の携帯電話市場。一部のユーザーに過剰な値引きをするような販売をしていては、健全な競争は望めません。端末代金の値引き制限も、そのような文脈から設定されたものです。

 しかし、先に述べた通り、販売店に課せられるノルマは、旧態依然どころか、捉え方次第ではむしろ悪化している状況です。

 通信料やサービス内容での競争を携帯電話事業者に求めるのであれば、無理な販売を強いてしまうノルマ設定にもメスを入れていくべきです。もちろん、メスを入れられる前に、キャリアや販売代理店が改善に取り組むことも必要なはずです。

 ユーザーが安心して「料金」や「サービス」で選べる環境の整備こそ、官民双方にとっての急務であると筆者は考えています。

チェック表 以前、とあるドコモ取扱店が使っていた、通称「レ点チェック表」。オプションサービスの契約獲得で「手数料」を支払うシステムは限界に近い……

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