2019年10月末、NTTドコモが「ドコモショップでの初期設定サポートの一部有料化」を打ち出しました。
発表から数日間、SNSでは「アカウントの設定など面倒事は多いし、有料化するのは正しい判断だ」という肯定的な意見もあれば、「格安SIMよりも高い通信料を支払っているのにサポートを有料化するのはおかしい」という否定的な意見もありました。
ケータイ(フィーチャーフォン)の初期設定は、「電話帳の移行」「メールの初期設定」といった比較的簡単かつ時間を取られないものが中心です。それに対し、スマートフォンの初期設定は、ユーザーのリテラシー(知識)にもよりますが、「アカウント取得」「アプリのダウンロードと設定」など、場合によっては簡単ではなく、かつ時間を取られるものが多いです。
スマホの初期設定サポートは、店舗(店員)の業務効率を悪化させる要素の1つで、手続きまでの待ち時間を増やす一因にもなっています。ケータイ時代から端末ラインアップがスマホ主流になるまで携帯電話販売店の現場にいた筆者としては、「携帯電話の販売につながらないサポートは有料化するべき」という意見にも一理あると思っています。
もちろん、これはあくまでも筆者が「元販売員」として思うことであり、今現在販売現場に立つスタッフが同じ考えだとは限りません。
「初期設定の有料化」で、ドコモショップを含む販売現場に何か変化はあったのでしょうか。少し前置きが長くなりましたが、今回は複数の店舗の現役スタッフに話を聞いてみます。
量販店スタッフ目線では「メリットが大きい」
まず、東京都内にある量販店の旗艦店で、ドコモ携帯電話の販売に携わるスタッフに話を聞いてみました。
量販店の旗艦店では、1カ月間におおむね数百〜数千台の携帯電話が売れます。一方、量販店は原則としてキャリアショップの機能は持たないため、いわゆる「アフターサービス」はほとんど行われていません。ごく一部、キャリアショップ機能を備える店舗や、「料金の支払い」「プラン変更」「故障修理」のみ受け付ける窓口を備える店舗もありますが、ユーザーのほとんどは「機種購入」を目当てにやってきます。
そんな店舗で働くスタッフに、初期設定の有料化について尋ねた所、こんな答えが返ってきました。
(キャリアショップ以外で購入した端末の)初期サポートの有料化を理由として、(スマホを)買わないお客さまが増えたということはないです。
さらに、その理由を聞いてみると、こう言います。
元々、量販店はショップよりも「頭金」が安価な設定です。もし、私たちの店で買われたお客さまがドコモショップで初期設定を(有料で)お願いしても、そのショップで端末を買うよりも総額では安くなります。
自分に限らず、他のスタッフも近隣のショップとの価格差は把握していますから、「有料でサポートを受けたとしても、総額では安くなります」と説明すれば、お客さまは納得してくださるので、影響が出ていないのだと思います。
さらに、こうも言います。
スマートフォンの登場初期から、私たちの店舗では初期設定やデータ移行の有料サービスを独自に実施しています。
ドコモの取り組みのおかげで、今までは「タダでやってもらえる」と思われていたサービス(の提供)がどれだけ大変で、だからこそ(ドコモショップでも)有料になったのだと説明しやすくなりました。
私たちの店舗の有料サービスを使うお客さまも増えて、店舗目線では助かってもいます。
筆者は日常的にいくつかの店舗を巡回して、記事のネタになりそうな話を聞いて回っています。その際に端末価格もチェックしていますが、ドコモショップと比べると家電量販店の方が3000〜5000円、場合によっては1万円ほど「頭金」を安く設定しています。
ドコモショップにおける初期設定サポートの手数料は3000円なので、近隣の競合店との差額さえ分かっていれば、ユーザー視点でも「得」であるとアピールはできます。
こんな意見も聞けました。
ドコモショップでの初期設定が有料化したことを知らず、購入後にショップへ行って「初期設定が有料」と案内されたお客さまがいました。
そのお客さまが(購入元である)当店に「タダで設定をしろ」とクレームになったこともありましたが、販売価格の違いをご説明することでご納得いただけました。
初期設定費用を「頭金」に含んで販売しているかいないかの違いは、量販店とドコモショップの価格差につながっている、という言い方ができるかもしれません。
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サポート有償化でドコモショップ店員の負担は「むしろ増える」?
次に、他店(ドコモオンラインショップを含む)で購入したスマホに対する初期設定サポ-トが有料化した、いくつかのドコモショップに勤務する複数のスタッフからも話を聞きました。
まず、サポートの一部有料化にはこんな声がありました。
初期設定サポートが一部有償化されましたが、当店で端末を購入するお客さまは、従来通り無料で初期設定を行います。
ただ、無償でサポートできる対象と内容が明確化された影響で、以前は無料でサポートしていたお客さまを有償でサポートせざるを得ない場面も出てきてしまいます。以前に当店で端末を購入頂いた方から「今回はなぜ(無償で)サポートしてもらえないの?」というご指摘をいただくこともあります。
こんな声もあります。
初期設定サポートとして行う項目には、「Googleアカウント」や「Apple ID」の新規取得も含まれています。「dアカウント」の取得やドコモメールの設定に加えて、スマホの利用に欠かせない別のIDの取得や管理についてもお客様と“二人三脚”で行うことが明確化されたので、今までであれば混雑時に断ったり後日来店で対応したりできたものが、「今やらなければならない」になってしまいました。
ドコモの取り組みは「ショップの負担を減らそう」という観点で決められたことは十分に理解できるのですが、捉え方次第では負担をむしろ増やしてしまったともいえると思います。
実際にドコモショップに行ってみると、スマホの操作案内を含む「設定の相談」で長時間待っている人を少なからず見かけます。今回、ドコモが「初期設定サポート」の範囲を明確化したことで、従来は「断れた」サポートを断れなくなる場面が出てくる可能性もあります。
そういう観点に立つと、先述のスタッフが言う通り「ショップの負担がむしろ増える」場面は出てきそうです。
他店で端末を購入したユーザーがサポートを求めてきたケースでは、早速こんなこともあったそうです。
量販店やオンラインショップで買われたお客さまに「その設定は有償でサポートします」とお伝えした所、「今までは無料だっただろ!」とお叱りを受けるケースが早速出てきました。
サービスは“形のないもの”なので、こちらが折れてしまえば無料で行えなくもありませんが、それでは有償でもサポートを依頼してくださったお客さまに示しがつきません。かといって、アフターサポート拠点としての役割を持つドコモショップが「買ったお店と相談してください」と突き返すことも難しく……。
こんな声もあります。
「当店での端末設定は有償です。ドコモショップでのサポートも有償です」といった案内がといった案内が量販店段階で徹底されればお客さまからのクレームは少しは減らせるのかなと思います。
しかし、このような案内をしたとして、ドコモのサポートは全て有償であるかのように思われはしないかと不安になります。それはそれでイメージダウンになるのではないかと……。
端的にいうと、初期設定サポートが一部有償化されたことについて、ユーザーへの周知が徹底されていないということです。
筆者はキャリアショップで勤務した経験もありますが、量販店の店頭での勤務経験の方が長いです。量販店では行えない手続きやサポートもあるため、お客さまに「困ったことがあれば全部キャリアショップへどうぞ」という旨の案内をしていたこともあります。
量販店における契約や端末販売でトラブルが発生した場合に備えて、キャリア(あるいは上位の代理店)ではスタッフ向けの電話サポート窓口を設けています。量販店の店員は困ったことが発生したらそこに電話……すれば全て解決するわけではなく、トラブルの内容によっては「量販店では対応できません」「ショップに誘導してください」という旨の回答を受けることも少なからずあります。
店員個人として解決法を知っていても、「ショップへ行ってください」という案内を徹底せざるを得ない背景がここにあります。
総務省は「量を追う販売」にこそメスを入れるべき
今回ヒアリングする中で、2019年10月に改正電気通信事業法と関連する総務省令・ガイドライン類が施行されてから「端末の売り上げが施行前の半分程度になってしまった」という嘆きも複数聞こえてきました。
以前の連載でも触れた通り、一部のショップや量販店では「頭金」を引き上げることで利益を確保するような販売をする動きもあります。しかし、端末販売だけではキャリアショップの経営は立ちゆきません。
かといって、携帯電話の利用者が減ることは考えにくく、各種サポートにかかるコストが大きく変わることはありません。そうなると、時間や手間のかかるサポート項目を有償サービスとする流れは致し方ないことであるとも言えます。
ただ、現状では「量を売ることでショップを維持する」という“台数(契約件数)至上主義”的な仕組みはドコモに限らず根強く、量に頼らずともショップを維持できる方策を考える所まで頭が回りきっていない状況です。
昨今総務省が取っている「過度な値引き販売を抑制する」「通信料の値下げこそがユーザー還元である」という方針も、一義的には携帯電話販売の健全化に資する正しい考え方ではあります。しかし、それを推進するには「量を追う販売」からの転換を促しつつ、販売店と契約者(ユーザー)双方の不利益にならない施策の検討も必要だと、筆者は思う次第です。
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