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コンビニおでん「無断発注」「販売中止」問題が暴く画一的ビジネスの限界 - ITmedia

 長く小売業態で一人勝ちを続けてきたコンビニで、異変が起きている。業界の“鉄則”だった24時間営業を辞める店が広がり、本部側も時短を容認するようになったのがその象徴だ。従来の「コンビニの常識」を、“オーナーたちの反乱”が揺るがしている格好と言える。

 この異変は、「コンビニ本部VSフランチャイズ加盟店オーナー」という側面だけでは理解できない。消費者ニーズやコンビニを巡る競争構造の変化も絡んでいる。私たちが愛用してきた「近くて便利」なコンビニはどこに向かうのか。まずは、コンビニの人気商品・おでんを巡る不祥事や、置かない店舗が広がっている異変に迫る。

photo コンビニ定番商品の「おでん」に異変が(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

無断発注被害「オーナーはみんな経験」

 外出すると寒さを感じるようになる季節、コンビニのレジ前にはおでんの香りが立ち上る。おでんは、秋冬のコンビニを象徴する主力商品といっていい。例えば業界トップのセブン-イレブン・ジャパン(以下セブン)は1977年からおでんを販売。「おでんを世界で初めて発売したコンビニは、実はセブン-イレブン」と誇り、店頭での販売に力を入れてきた。

 セブンの場合、おでんの工場は全国65カ所。人気ナンバー1はだしの染みた大根で、販売数は年間5400万個にも上る。低カロリーでヘルシーなのも人気の理由だ。

photo 大根を始め人気を誇るセブンのおでん(同社公式Webサイトより引用)

 この秋、そのおでんで不祥事が起きる。11月15日、セブンは、加盟店の指導に当たる本部社員2人が、オーナーに無断で加盟店のおでんを発注していたことを明らかにし、社内規定違反で懲戒処分したと発表したのだ。今回発覚した不正があったのは5月以降のこと。オーナーがいない時、発注業務などに使うストアコンピュータを操作して発注していた。

 「数字を作るための無断発注は、オーナーはみんな経験してますよ。上司向けの資料のために、仮発注を頼まれることもあります。店舗指導しながら発注を入れていく本部社員もいます」(首都圏の大手コンビニ店オーナー)という声もあり、問題の根は深い。

 コンビニ店のほとんどはフランチャイズ加盟店で、本部とは独立しており、仕入れの権限も店にある。本部社員といえども、勝手に発注するのはご法度だ。しかも、売れ残った商品を廃棄すると、その損失はほとんど店が被ることになる。

 2人はなぜ、不正に手を染めてしまったのか。

元コンビニ幹部「本部社員にはノルマ、考課対象に」

 ある大手コンビニで本部幹部社員を務めていた山田一郎さん(仮名)は、「加盟店を指導するスーパーバイザー(セブンではOFCと呼ぶ)には、担当地域での推奨商品発注額のノルマが課され、人事考課の対象になっています」と、おでんなどの押し込みに本部社員が血眼になる背景を説明する。

 セブンの永松文彦社長は今回の不正の発表に際し、ノルマの存在は否定しつつも「(本部社員に)数字に対するプレッシャーがあったのかと思う。担当者だけの問題で片付けてはいけない」と述べ、本部社員に課された営業目標がプレッシャーになっている実態を認めた。

 11月27日、セブンは無断発注問題を受け、オーナーからの通報を電話で受け付けるフリーダイヤル「無断発注ホットライン」を開設した(12月26日まで24時間受付)。

 本部社員側による強引な発注推奨を早速通報した大阪府内のセブンオーナーは「やはり店番(加盟店に個別にふられた番号)を聞かれました。オーナー相談室にそのまま伝えるのだそうです。気の弱いオーナーさんなら、圧力を恐れて口ごもってしまうでしょう。(通報を)応対した人に役職を尋ねると、本部から依頼された外部の会社でしたが、会社名は『守秘義務があるので言えません』とのことでした」と明かす。

おでん中止の背景に「手間」と「廃棄」

 無断発注問題と並んでコンビニおでんを巡って物議を醸しているのが、「おでんを取りやめる店舗の増加」のニュースだ。人気商品にも関わらず扱いを止める背景には、深刻な事情がある。

 そもそも、おでんがコンビニを代表する商品になった背景には、根強い人気に加え、「粗利率の高さ」がある。コンビニで販売される商品の粗利率は平均30%程度(70円で仕入れたものを100円で売る)だが、おでんの粗利率は50%(50円で仕入れたものを100円で売る)になる。

 「おでんは売れば売るほど利益が出る」と本部が推奨するゆえんだが、現場の納得感は低い。原因には、手間がかかる商品であることと、廃棄が多い点がある。

 24時間営業を含めコンビニの持続可能性に黄信号が点滅する中、経済産業省は「新たなコンビニのあり方検討会」(座長=伊藤元重学習院大学教授)を設置し、全国のオーナーからヒアリングを実施してきた。そこではこんな意見が出た。

 「学生には、コンビニの作業がおでんやフライヤー、中華まんやドーナツなど多方面にわたり、複雑な割に時給が最低賃金近くということから敬遠されている」

 「バイトの範囲を超えている。レジをやりながらファストフード作って、ファストフード作りながら掃除してというように、やることが多すぎて」

業務は大量・複雑、時給は最低賃金レベル

 コンビニは大手3社の大量出店の結果、市場が飽和状態に近い。それでも日販(1日の売上)を維持・増加させようと、毎週のように新商品を投入しコンビニで利用できるサービスを増やしていった結果、「お店での仕事」が多様化、複雑化の一途をたどった。

 調理機器を洗浄し、おでんを調理し、だしが減ったら加え、鮮度を保つため時間がきたら売れ残りを廃棄する。具材にはそのままだしに入れられるものもあるが、袋に保存料が入っているためいったん洗わなければならないものもある。おでん(を含むファストフード)の提供は「やることが多すぎ」の象徴になっているのだ。しかも時給は最低賃金レベルに抑えられているため、学生から敬遠されてしまうのだろう。

 手間がかかるということは、オーナーから見れば時給というコストがかかることでもある。

 経産省検討会でも、こんな意見が出た。「(おでんなど店内で調理する商品の売価が100円の場合)粗利は50円で、(加盟店から本部が吸い上げるロイヤリティーが粗利の55%だと)本部が27.5円、お店が22.5円(になる)。ただ、調理費用が20円ぐらいかかるとしたら最終的な利益は2.5円分にしかならない」。

 つまり「高い粗利率」というのは、おでん作りにかかる人件費の一部(店内調理等にかかるアルバイトの時給)が原価に入らないため、そう見えるだけ、とも言える。

時間来たら「一律で廃棄」

 しかもおでんは鮮度管理のため、時間がきたら売れ残りを廃棄しなければいけない。「おでんの具材には、肉類のように味を出すものと、卵やこんにゃくにように味を吸うものがあって、後者は時間がたった方がおいしいのですが、決まりなので一律に捨てています」と千葉県のセブン・オーナーは話す。

 見栄えを良くするため本部は、店頭の「鍋」の中におでんをぎっしり詰めるよう指導している。そのため天気や気温、時間帯によっては、せっかく作っても捨てる量が多くなりがちだ。採算分岐点となる売上高は1日1万円前後とされるが、最近は売り上げが伸び悩み、そこまでいかない店も多い。

おでん止めたオーナー「廃棄は店負担、赤字に……」

 実際におでん販売を止めたというオーナーは、「廃棄はほとんど店(オーナー)の負担です。廃棄の多いおでんは赤字になりがちなので、うちではやりません」と言う。おでんを入れる容器もけっこう高い。

 また、「おでんが秋冬の売れ筋」というのは本部目線でみた平均値の話だ。駅前かオフィス街か住宅地か、地域に1店しかないかコンビニがひしめいているか。立地によっても、店ごとに事情は変わってくる。

 無断発注は論外だが、本部側がオーナーに強く推奨しておでんを無理に売らせ、大量の廃棄=食品ロスを出し続けるのも、お店にも消費者にも、そして環境にもやさしくない。「どの店にもおでんを」というのは本部の都合でしかない。

コンビニが「平準化」する意義はあるのか

 そこで思い出されるのが、筆者が以前行った竹増貞信・ローソン社長へのインタビューだ。「平準化で発展してきたコンビニに、地域性や店の個性をどう組み込んでいくかが重要だと考えています」(竹増社長)。

 考えてみれば、「北海道から沖縄まで、同じコンビニチェーンならどの店もまったく同じものを同じように売っている」ことに、本部の管理上のメリットはあっても、客にとっての意味はない。

 とはいえ、棚の99%以上を本部推奨商品で埋める「平準化」で発展してきたコンビニにとって、「地域性や店の個性をどう組み込んでいくか」は、難易度の高い課題にも思える。次回は、コンビニより先に壁に突き当たり、だからこそ改革を模索している他の小売業態にヒントを探したい。

著者プロフィール

北健一(きた けんいち)

ジャーナリスト。1965年広島県生まれ。経済、労働、社会問題などを取材し、JAL「骨折フライト」、郵便局の「お立ち台」など、企業と働き手との接点で起きる事件を週刊誌、専門紙などでレポート。著書に『電通事件 なぜ死ぬまで働かなければならないか』(旬報社)、『その印鑑、押してはいけない!』(朝日新聞社)ほか、共著に『委託・請負で働く人のトラブル対処法』(東洋経済新報社)ほか。ルポ「海の学校」で第13回週刊金曜日ルポ大賞優秀賞を受賞。


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