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【マツダ地獄を繰り返すな!】販売低迷でも大幅値引きをしない理由 | 自動車情報誌「ベストカー」 - ベストカーWeb

 8年以上前の話になるだろうか。かつてマツダの新車を買うと、大幅値引きで買ったのはいいが、いざ下取りに出す時になると、他社のディーラーでは買い叩かれるため、結局は高く買ってくれて大幅値引きをしてくれるマツダディーラーに戻り、再びマツダの新車を買うという「マツダ地獄」と呼ばれていたことがあった。

 年度末には300万円のクルマで40万円以上の値引き……なんていうケースも多発していた。

 しかし、最近ではそのマツダ地獄はなくなったと聞く。大幅な値引きはしていないというのだ。

 最近のマツダ車は販売低迷しているというが、それでも本当に大幅値引きはしていないのだろうか? 流通ジャーナリストの遠藤徹氏が徹底レポート。

文/遠藤徹
写真/マツダ ベストカー編集部 ベストカーWEB編集部 

【画像ギャラリー】CX-30と、改名後のマツダ2/3/6の販売台数は?


マツダディーラーの営業マンに本音を聞いた

2019年夏にリニューアルされたマツダの新世代店舗「関東マツダ本社兼板橋本店」(写真と本文とは関係ありません) 。決算セールや大幅値引きののぼりが立ち、ショールームの壁にチラシが貼られていたかつてのマツダディーラーが一変。マツダが2014年から黒い外観の新世代店舗にリニューアルしてから大幅値引きがなくなったといわれている。この新世代店舗は全国で173店舗を数え、今後年間50店舗を目処に展開していくという

 最近、首都圏にあるマツダ販売店を回り、マツダ車の購入交渉をして驚くのは以前に比べて値引き幅を極端に少なくして売っていることだ。その理由として首都圏のマツダディーラーの営業マンは、

 「かつては大幅な値引き販売をしていました。そのことが中古車価格の下落につながり、さらに下取り車が安くなり、新車の大幅値引きを繰り返さざるを得ない慣習を作り出し、商品価値の下落と販売店の収益ダウンにつながっていました。

 これはご存じの通り、マツダ地獄と呼ばれていました。6月、12月のボーナスセール、3月の決算セールはショールームの前にのぼりを立てて、新聞の折り込みチラシを大量に配っていました。

 この悪循環から、なかなか抜け出せませんでした。よくお客様から、マツダ車を買って、数年後に他社のディーラーで下取りに出すと買い叩かれて信じられないような低い査定額なので、結局一番高く下取ってくれて値引き額の大きいおたくのクルマを買うことになったと……。

 大幅値引きをしなくなったのは全面的にSKYACTIVを搭載したCX-5が登場した2012年頃だったと思います。この悪い慣習をやめようとしてメーカーの指示もあり、値引き販売の抑制をスタートさせたのです」と、その経緯を証言してくれた。

 こうした値引きしない販売方法は、2014年から黒い外観が特徴の新世代店舗をスタートさせたが、新世代店舗になってからその傾向はさらに加速した。

 ショールーム内で、かつては値引き額を前面に出していたセールストークも影を潜め、チラシもなくなり、営業マンも明らかに値引きを渋るようになった。

 販売台数を確保するためにインセンティブを増やしすぎると、収益悪化の原因になる。また、値引きしないと売りにくくなり、ブランド価値が下がる。

 一方、マツダが”正価販売”と呼ぶインセンティブを抑制する手法に転換すると、販売台数を増やすのが難しくなるのは当然である。

 しかし、環境性能と走行性能を両立させたSKYACTIV技術や野生動物がモチーフの「魂動(こどう)」デザインで商品力が向上し、中古車の下取り価格も上がった。マツダの藤原副社長は「マツダ地獄はなくなった」と自信を示した。

新世代店舗とは、マツダのデザイン本部が監修し、「マツダらしさ 心がときめく」店舗デザイン、「マツダのクルマの魅力が引き立つ」新車ショールーム、「絆が強まる」店舗ゾーニングという3つの価値と、「品格あるたたずまい」、「惹きつける力」、「クルマを美しく魅せる」、「居心地のよいしつらえ」という4つのデザインコンセプトを規定したガイドに基づいた店舗

主要モデルの販売台数は?

月販目標台数2500台に対し、2019年10~12月の月販平均台数は2814台とまずまずのスタートを切ったCX-30

 ここで、2019年1~12月における主要モデルの販売台数を見ていこう。まず10月24日に発売したCX-30は2019年12月25日までのおよそ2カ月で受注台数が1万2346台と発表、月間販売台数2500台の約5倍という好調な滑り出しとなっている。

 CX-30の月毎の販売台数は、2019年予約受注が始まった9月は627台、発売となった10月は2525台、11月は2690台、12月は3226台と月販平均は2814台だから、まずまずといえる。2020年1月16日にはSKYACTIV-X搭載グレード( 329万4500円~)も追加されたので、これを弾みにしてさらに伸びてほしいところだ。

 マツダ2はデミオからネーミングを変更した2019年9月からの販売台数は、9月4871台、10月2080台、11月1948台、12月2114台で、月販平均が2753台だから、デミオの時の3500台規模に比べると明らかに減っている。

 この理由として、首都圏にあるマツダディーラーの営業マンは、「ネーミングを変えてマイナーチェンジをしたが、中身はほとんど同じでモデルそのものは古いから(2014年9月発売)、売れ行き不振になるのは当然」と打ちあける。

 従来のアクセラからフルモデルチェンジを機に車名を変更したマツダ3の2019年5月から12月までの販売台数は、5月1682台、6月1591台、7月3668台、8月3916台、9月7533台、10月1891台、11月1588台、12月2793台。月販平均が3082台でアクセラの時の過去1年間における1500台規模に比べると倍増。

マツダ3は019年12月5日に発売されたSKYACTIV-Xが追加されて大躍進するかと思ったが、2793台にとどまった。2020年1月以降の販売がどうなるのか気になるところ

 堅調といえるが主軸モデルのひとつとしてはもう少し頑張ってもらいたいところだ。2019年10、11月は2000台ラインを下回る推移、12月は2793台と少し伸びたものの、今後の厳しさを示しているといえるかもしれない。

 3列シート仕様のSUV、CX-8は2019年1~12月の月販平均が1941台で前年同期に比べて24.1%もの大幅なマイナスとなっている。

 2017年9月14日に発売してから、3年目に入っているのでモデルの陳腐化が足かせになっている。10月525台、11月953台、12月1822台と、特に2019年10月以降の販売台数激減が響いた。

 CX-5は2019年1~12月の月販平均が2628台で前年同期比17.6%減とやはり大幅なマイナス。現行モデルの登場が2016年12月15日で2018年10月11日にはマイナーチェンジを実施し、一時販売を回復したが、1年経過でまた頭打ちになっている。

 コンパクトSUVのCX-3は2019年1~12月の月販平均が824台で前年同期に比べてこれまた42.0%もの大幅なマイナス。こちらは2021年にもCX-30に統合して生産中止となる可能性がある。

2019年9月以降販売が激減しているCX-3。9月207台(15.8%)、10月1387台(63.5%)、11月417台(26.8%)、11月335台(23.2%)、12月253台(26.5%)と低迷を続けている。カッコ内は対前年同月比

 アテンザは2019年7月4日のマイナーチェンジを期に「マツダ6」に車名変更したが、販売台数は不振のまま。

 7月434台、8月589台、9月641台、10月249台、11月242台、12月185台と、月平均は380台とアテンザの時とほとんど変わらない不振の実績。モデルそのものが古く、世代交代の時期に来ているためでもある。

アテンザは2019年7月4日のマイナーチェンジでマツダ6に改名。2019年の販売台数はアテンザが2340台、マツダ6が3028台。マツダ6(2019年7~12月)の月販平均は380台

 マツダの2019年にける新車の総販売台数は20万3580台で前年に比べて7.8%のマイナス。これは業界全体の1.5%減を6.3ポイントも下回っている。

 前述の中心車種が軒並み販売不振状態のためといえるだろう。その要因は古いモデルが多いのと、価格政策の間違い、値引き幅が少ないことによる価格競争力のダウンなどが上げられる。

大幅値引きをしない理由を営業マンに直撃

新世代店舗のオシャレなショールームの雰囲気で、なかなか大幅値引きを切り出せないかもしれない

 「最近、SKYACTIV車は価格が大幅に跳ね上がっているのに販売店のマージン幅は逆に引き下げられているので、値引きをしたくてもできない状況にあります。それにメーカーの指示で再販価格を高くするために値引きを抑えるようにしています」という答えが、3店舗の営業マンから一様に跳ね返ってきた。

 ではマツダ車の値引き額はいくらくらいなのか? 首都圏のナビ、ETC付きで主要車種におけるおおよその値引き額は以下の通り。ここに記した値引き額は、グレード、地域、時期の違いによる差が出てくるので参考程度に考えていただきたい。

 マツダ2/5万~10万円、CX-3/17~20万円、マツダ3/5万~10万円、CX30/5万~10万円、CX-8/20万~23万円、CX-5/21万~24万円、マツダ6/20万~23万円となっている。

 たしかにライバル他車に比べると値引き額は5万~10万円も渋い。それでいてSKYACTIV車は同クラスの他社のガソリン車に比べて約20万円高く、クリーンディーゼル車はこれより20万円高だ。

 例えば、SKYACTIV-Xを搭載したマツダ3のXグレードは319万8148~368万8463円だが、同グレードの1.8LディーゼルXDに比べると40万7407円高、同グレードの2Lガソリンの20Sに比べ68万2407円高、最も安いマツダ3の1.5S(222万1389円)と比べると、97万6759円も高いのだ。

 このうえで値引き幅が少ないのだから、価格競争力が弱くなるのは当然といえる。

 マツダ車は、値引きはまったくしないということではないが、もともとの価格設定が高いうえに、値引き額を抑えているのは、営業マンからすれば売りにくいだろう。

 かつてはMPVが80万円引き、アテンザが50万円引きといった、大幅値引きは今ではなくなっているということだ。

 こうした指摘に対し、マツダディーラーの営業マンはこう釈明する。

 「SKYACTIV-G、SKYACTIV-D搭載車はコストが開発、生産にコストがかかっており、大幅に値引きするクルマではありません。クルマのよさをわかっていただける方に大幅な値引きはせず、適正な価格で販売する方針をとっています。

 さらにSKYACTIV-Xは SPCCI(火花点火制御圧縮着火)という、ガソリンを燃料としながら、ディーゼルエンジンと同じように圧縮着火を実現する燃焼方式を採用しています。

 スーパーチャージャーやマイルドハイブリッドも装着されていてコスト高になっています。エンジン生産時の工作精度と検査工程の手間がかかっており、正直、コスト重視で作ったクルマではないので、値引きはほとんどできない状況です」。

 ただ、マツダディーラーは、価格設定が高いなりに対策は施している。販売の中心となっている残価設定クレジットを組む場合の残価を高く設定している。

 SKYACTIV搭載車については1ヵ月1000km、1年1万2000km以内の走行距離の条件で3年36回払いの残価を55%、5年60回で35%と設定し、これを保証している。

 ライバル他社の主要モデルよりも3~5ポイントも高くしているのである。これは再販価格が国産で最も高いトヨタ車よりも高く、レクサス車並みである。

 SKYACTIV-X搭載車はマツダ3やCX-30に搭載され、発売されたが、受注段階の販売構成比は10%程度と低い。

 価格が2Lガソリン車より約68万円も高いうえに車両本体からの値引きはゼロを基本にしており、ハイオクガソリン仕様であるから余計に高くつくのも要因として上げられる。

 はたして、このまま大幅値引きしないで大丈夫なのか、2020年の動向を注目していきたい。

■証言1:首都圏マツダ販売店営業担当者

 「値引きを抑えて売ることは、これまでの商習慣でできませんでした。ようやく大幅な値引き販売をしない販売方法に転換できたのは、メーカーの協力によるところが大きいです。

 従来だとライバル社との販売競争に勝つためにメーカーが販売店の尻を叩いていたので、乱売に走りがちになり、マツダ地獄などと揶揄されてしました。

 値引きを抑えると販売台数も頭打ちになりますが、それに対してメーカーはあまり文句を言わなくなっているので、今日のような状況になっているともいえます。

 やや販売状況が厳しい車種もあり、今後どうなるかわかりませんが、デザインのよさと他メーカーに真似できない高い技術力をこれまで以上にアピールしていきたいと思います」。

表内の%は対前年同月比

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